記4

ここは、わたくし(名)キリハラが新ふゆきょうの宣伝をしたり挫折したり
呪いの言葉をぶちまけたり誰彼かまわず攻撃したり
あなたと仲良くなったりするウェブログです。嘘ばかり吐いてゐる。ホ、ホ、ホ。
パスタを茹でろ、飯を炊け
福満しげゆき 昔からキーボードはノートパソコンのような薄いタイプが好きで、逆にウィンドウズ系の色々、特に言えば一度日本から撤退した巨大パソコンゲイトウェイの見た目も押し心地もごついキーはあまり好きではない。ではデスクトップなどやめてラップトップ(この表現って使わなくなったよね)を使えば良いと仰る方もいらっしゃろうけれど、ラップトップは値段とスペックのバランスを考えるとデスクトップよりも一段階劣るし、何よりあの薄い液晶画面が心許なくて敬遠していた。今もしている。ので、自腹を切ってラップトップを買ったことはない。それにキリハラは何度も書いている通りマッキントッシュユーザーなもので、ウィンドウズのように手ごろな価格でそこそこのラップトップを買うことが出来ないし、実家でしかパソコンを使わないこともあって置き場所を考える必要があまりない。更にアップルは一般ユーザー向けにディスプレイ―本体一体型のiMacやeMacを発売している訳であって(後者はフェイズアウト)、机のここにタワーを置き、こちらにディスプレイを置き、必要に応じてパソコンラックを買いといったウィンドウズユーザー様が頭を悩ませる事柄にかかずらなくても良いのである。
 勿論マックプロなどを使うヘヴィユーザーの方は別としても、彼らはそれに応じたスペースとインフラを既に持っているであろうから、さほど問題にはならないと思われる。全然関係ないが、以前アップルのウェブストアでフルチューンしたマックプロの値段を出してみた所、百二十万円を超えていた。うーん、君、それはどうやって買えばいいのかね。ミリオンって何かね。ミリオンダラーベイビーのことかね。クリント・イーストウッドか。更に脇道へ逸れるなら、ジェームズ・キャメロンか。『アヴァター』なのか。貴様、キリハラは観ていないけれどあんな映画が素晴らしいというのか。何でもアメリカでは、華美且つ流麗な映像に心酔し過ぎて醜い現実に戻り切れず、思い余って自殺を図った者までいたそうではないか。それって良い事なんでしょうか。韓国でネットゲームの世界から帰って来られず自殺した引き篭もりと同じなんじゃないですか。もしくは『暗い日曜日』を聴いて自殺した数々の人々に似ているんじゃないですか。そうでもないか。『暗い日曜日』は時代背景が全然違うしね。
 話を元に戻すと、キリハラがボーナスで買った新型iMacアイラヴューは往年の日立フローラシリーズを想い起こさせる薄型一体デスクトップで(液晶!)、おまけにキリハラの大好きな薄いキーボードだった。昨今、押す感覚を求めてラップトップまでが高めのキーに設定されている状況を鑑みるに、これは革命的と読んでも差し支えない決断だったのではないだろうか。さすがジョブズ爺さん、やりますな。マウスも能面ながらスリーボタン式の能力を持っているとあって、キリハラは感動し切りであった。何か面倒くさそうだから使わなかったけど。
 薄型キーボードの何が良いかというと、手首を浮かせずにタイプ出来ることが一つ。これによってジェル手首置きといった無粋な代物を使わなくて済む。そしてもう一つ、単純に打った時の感覚が気持ち良いのである。オノマトペで表すならば、通常のデスクトップ用キーボードがカタカタないしカカカカであるのに対し、薄型、従来のラップトップ用キーボードはパチパチという音がする。キータッチも柔らかい。ここがいい。指を立てずに、半ば撫でるようにして文章をタイプして行くのは非常に心地が良い。多分好みが分かれる所だと思うけどね。キリハラは好きなのである。ただ、他のマックユーザーが昔ながらのデスクトップタイプをご所望とあらば天下のアップル様も考えを変えなければいけないだろうから、その点は今後の動向を注意して見守りつつ、ラップトップ型キーボードの良さを周囲に啓蒙したいと思う。というかもうしているのだけど、芳しい答えが帰ってきたことは一度しかない。皆様カタカタがお好きなようである。
 ただ、昨今のラップトップ低価格化と会社における省スペース化を考え合わせれば、パチパチキーボードに慣れてくる方々が増えるのも時間の問題と思われる。実際キリハラが最後に勤めた企業でもラップトップ化が進んでいたし、連れの会社も同様の傾向にあるようだ(これにはもう一つ理由があって、パソコンを閉じていれば帰った証拠になる)。嬉しい。ディスプレイが液晶の薄型になり、タワーも厚みを失ってきた。次はキーボードではないかと期待してならないのである。
 ところでここ一年、キリハラはアル中かジャンキーと間違われることが多い。それは酒を飲む度に泥酔したり、部屋で一人スコッチをすこっちやっていたり、おくすりをのんではっぴーになっていたりするからなのだが、まあ、こうして書き出してみればアル中ジャンキーに他ならないから反論の余地一切なし。困ったものである。しかもその一方で、止めるべき立場にあるはずの連れも時折頭の悪い酔い方をしてキリハラの実家に押しかけてビールを飲んで帰ったりしているのでなかなかキリハラを止められず、質の悪い二人組となっている。やれどうしたものか。繰り返すが、困ったものである。そして読者諸賢がご想像の通り、この文章はお酒を飲みながら書いている。ビールである。アサヒザマスターの五百ミリ缶とヱビス超長期熟成である。銘柄はともかくとても美味しい。ほんの二、三年前まで全く美味しいと感じなかったのが、どうしてこうも変わったのか。それには生ビールと缶ビールの存在が大きく横たわっている。言葉を変えれば瓶ビールは面倒だから嫌いだったのである。
 キリハラは家族間など気の置けない間柄の人とビールを注ぎ合うのは嫌いではないが、公式の場で隣の人のグラスの残量に気を遣いつつ注ぐタイミングを計ったり、逆に「飲みが足りない」と、半分残っているのに注がれて飲まざるを得ない状況に陥るのが大嫌いで、ビールと長らく慣れなかったのもそこに原因がある。勿論、いつも出て来るスーパードライが不味かったのもあるけれど。そこに来たのがサッポロの生ビールだった。生は当然ジョッキに満杯の状態で持ってこられるため、乾杯さえすれば後は好きに飲める。そうして飲むと、夏の仕事後など、最初の一口が美味い。当初は一杯だったのが、やがて二杯、三杯と量を増やして行くのは必然と言えた。言えない?うん、言えません。飲みたい盛りの言い訳です。で、酒の席でビールの美味しさに目覚めると、何となしに缶ビールを飲むようになる。キリハラは、タモリ倶楽部で酒の回をやっていると「あービール美味そうだなー飲みたいなー」などと呟いて、母親の一言「じゃあ飲む?」に釣られサッポロ黒ラベルを飲むようになった。そして現在は連れの家でヱビスを飲むのが日常化している。
 そんな訳で、上述した通り、この記事を缶ビール片手に書いているという次第なのである。限定醸造のヱビス超長期熟成は苦味と深みの強い、ある種癖のあるビールなのだがそのバランスが日本人に丁度良くブレンドされていてとても美味である。皆様も飲まれたし。
 ヱビスと言えば、ギネスの販売権をキリンに持っていかれたが、その前から黒ビールの製作に着手していたらしく、昨年の盛夏に新たな商品「ヱビススタウトクリーミートップ」を直営店で販売開始している。これがまた美味しい。何やら本日はキーボードとアルコールの話題に終始しているがご勘弁願いたい。だってここ、俺のウェブログじゃん。
 やはりというか何と言うか、バドワイザーのスッキリ感もカールスバーグのバランス感覚もバスペールエールの苦味も良いのだけど、日本人が日本人向けに作ったビールは美味しい。上でスーパードライを不味いと書いたが夏にビアガーデンで生を飲んだら爽やかな心持ちになるし、サッポロの黒ラベルはジャパニーズスタンダードと呼べる出来だし、ヱビスは高級感がありながらも日本人の中流階級意識を忘れてはいない。お国柄というものは何だかんだで出るものだと思う。
 キーボードも同じで、こちらは土地ではなく時代だが、キリハラは薄型、ラップトップ式キーボードを今が求めているように思えてならない。指も手首も疲れないし、何よりデスクトップ型よりエコっぽいから。
 まとめにも何にもなっていないが、きょうはお終い。小説の仕込をして寝る。ゲェップ。
| 悪魔超人の食卓 | 18:00 | comments(0) | trackbacks(0) |
グライダー、グライダー
橙 いい加減読者諸賢は気が付いているだろうし、キリハラ自身も隠す必要を感じなくなったこともあって、そろそろ書いてしまおうと思う。午前四時。朝にも夜にもなり切れない空白のような時間帯がそれにふさわしいかどうかはよく分からない。まして読者の方々(まだいらっしゃるなら恐悦至極)が読まれる時間に合った話題なのか、読んだことで引くことになるのかどうかは尚更分からない。でも書く。暇だし。
 何を書くかというと、キリハラが病気と認定されてから本年でめでたく五年の節目を迎えることである。五年と言えば小学校に入学した生徒が最高学年にまで上り詰め、旧ソ連の五ヶ年計画が成就しコルホーズが成立する、また五ヶ年計画というと他にも中国を始めベトナム、インドでも行われており、旧東側の国々ではメジャーな政策であったと言えるがそんなことはどうでも良く、それだけの時間をキリハラはウェブログに費やしたり大した量でもない本を読んだり、その中には、両親から命ぜられた病気に関する本があったり、嫌々それらを読んで症状が悪化したり、症状が最悪の時期に高校時代の同級生が遠く太平洋の向こうからさんざっぱらキリハラの生活を乱してまたぞろ症状が悪化したり、そいつと同窓会で顔を合わせた後に二度と会わない旨を伝えたら半年に渡って「殺しに行く」といった剣呑な内容のメールがひっきりなしに飛んできてまあたまたまた症状が悪化したり(今も飛んできているかもしれない。刺激するのが面倒くさくて着信拒否にしたからもう現状は不明)、生産的なことは何一つせず、寝たり起きたりまた寝たり、文章の安定化と底上げ程度しかやって来なかった挙げ句金もなくなり仕事もままならず、まあそういう誰でもする話はいい、兎にも角にも長い時間を無為に過ごして参った。両親との諍いも多かった。布団を被って泣いていた。そんなどこにでもある話だがまさか自分の身に起こるとは思ってもみなかったし、最初に認定された時は辛い場所から解放される程度の認識だったこともあって、五年経った今、やっと自分が病気になってしまったことを認知出来ている。
 キリハラは鬱病である。みんな、多分知っていると思うけどね。
 今まで直接的に書かなかったのは記4が告解の場所ではないとの認識、キリハラのドバイ建築ばりに高いプライド、あとは冒頭に書いた通り読者諸賢が引かないか心配だったから。とは言え箱庭療法を受けるだのなんだのの記述があったことからとっくのとうにキリハラの状態など理解しており、必死に核から逸れた場所を行こうとしている姿に苦笑された方もいらっしゃるかも知れない。だとしたら申し訳ない。謝る必要はないのか。
 ただ、病気になってしまったような書き方をした後で何なのだけれど、子供の頃から病気とは行かないまでも、今思えば明らかに人と違う気鬱を持っていた自覚はある。また、気鬱と共に、半年に一遍訪れる「万能の一週間」と自身で名づけた短い期間も存在した。思えば半年に一度だけ躁状態に陥って寝なくても平気な精神状態を手に入れ、しかもその事を自覚していたのは躁鬱気質以外の何者でもないと今振り返れば捉えられる。そして、同じように自分の気質は危ういとも感じており、いつか折れて二度と自分が持っている領地には戻れないことも薄々分かっていた。そんでもって薄ら寒い予感は大当たりだった。
 キリハラは、自分が義務と感じた事以外は好きな物事としか向き合わない惰弱な人間で、今もそれは変わらない。だから学校を出てしまったら何処かのタイミングで折れると思っていたし、事実そうなった。社会人を始めて二年と少しの間は騙し騙しでも楽しく過ごせていたからもしかしたらと期待したものの、ある時を境に坂から一気に転げ落ち、再度上る気力もなく現在に至る。では何故そこで別の坂を上る努力をしなかったのか。そこがキリハラ最大の気質的問題だと考える。一言で言えばキリハラは予想していたことだから、自分の人生は取り敢えずここまでと思ってしまったのである。我ながら酷い話である。まともに働いている方々が聞いたら、今からこいつを殴りに行こうと画策するかもしれない。
 しかしながら一旦折れはしたものの再度挑戦する程の気概は四半世紀生きた十八歳の青年に残っており、潰れに潰れて最後会社を首になってから半年足らずで再就職したことだけは評価されてもいいように思う。また半年で首になったけど。ここで、はてと思われた方もいらっしゃろう。何故ならキリハラは当ウェブログに長い間会社のことを書いてあったからである。結論から言えば、あれ全部嘘。時系列的に読み返して頂けると分かるのだが、一昨年の暮れ辺りはキリハラ大体嘘を吐いている。会社であれこれあったと書きながら、実際には既に無職の身であった。騙されたかね、君。
 騙されて下さった方には申し訳ない。謝るから許して下さい。必要なら頭を下げてもいいんだよ。
 何だか書いている内に楽しくなってきたのだが、つまりこの記事で何を主張したいかというと、キリハラが虚も実も失って最後に残されたのが文章だったのである。
 いや話がいきなり飛躍してしまった。キリハラは二度目の会社勤めに失敗した後一年程就職活動をしていたのだが、如何せん不景気であるし二社目の在職期間が短い、経理ながら特殊な位置づけにいた、覇気がない、等々あって上手く行かず、二度の潰れの原因が特定出来ずにいたこともあって、昨年末から先ずはアルバイト、そして社会人に復帰するプランを家族会議にて決めていた。それから何社も蹴られたのち受け入れてくれた深夜バイトが今年始まって、さて現場に向かおうとの段になって発作とかブランクとか色々なものから来る強烈な気鬱、要するに会社で潰れた、具体的には朝目が覚めても辛くて出社出来なかったのと同じ状況に陥った。そこは散々難儀してどうにかこうにか初回の業務をこなし、二回目も吐き気を催しながら潜り抜けたのだが、本日三回目の現場があって、行くまでは何とか落ち着きを保っていたからこれは慣れてきたのか、社会性を取り戻したかと安心したのも束の間、現場に入ってから一時間ほど待機時間が生まれ、古き良きライトバンの中、社員含め六名で座っていたら今までにない気鬱が『ワルキューレの騎行』と共にやって来てしまい、運がいいのか悪いのか現場が都心部だったことから社員に嘘を吐いて逃げ出して、連れの家に転がり込んで今こうしてウェブログなど書いている。そろそろ現場は片付いて「あいつ大丈夫かな。辞めるかな」等と噂されているかも知れない。そうでないかも知れない。いずれにせよ、以上の経緯を経て残った生活の糧が文章だけなのではないのかと、こういう次第なのである。これでも飛躍しているか。生きる覚悟が足りないか。うん、その通りかも知れない。
 勿論まだプロではないものの、昨年仕込んだ仕事が成功すれば全国デビューと相成るし、他にも鉱脈を探して何とかやって行く覚悟はある。人生の半分を文章に費やしてきた成果か、これに関してだけは何をしようと何を言われようとどんな扱いを受けようと辛くはなく、外に出て行って打ち合わせも出来る。まあ打ち合わせで酷い仕打ちを受けたことはないけれど、何とか乗り切れる確信はある。とは言ってもまだギャランティが発生した訳ではないし、それまでは何らかの手段で生活を維持しなければならない。連れにも定期収入の件は婉曲的に触れられている。ではどうするか。次回の現場に行けるのか。実際の所、そんな先のことは分からないため夜が明けたら医者と相談、親と相談、連れと相談してみるつもりでいる。今まで堕落した生活を送って来たその後で、万城目学みたいにモラトリアムをくれというのはなかなかにして図々しい話だし、やっぱりアルバイトしなきゃいけないんだろうなあとは思っている。
 真っ当に生きていらっしゃる方々から見れば言い訳がましい贖罪的文章であろう。すいません。鬱病で苦しんでいる方々にも申し訳ない。こんなんなってごめんなさいとしか言えません。
 今は、早く印税様になって恩返しやら見返しやら踏ん反り返しをしてやろうと意気込みつつ、来週火曜の現場をどうするか悩んでいるところである。
 キリハラはグライダーなのでエンジンがなく、好き嫌い以外自分で決める事が出来ない今風の惰弱な気質だけれども、生活手段として唯一決められたのが文章だから、自分も言葉も何とかしてやりたいと思っている。勿論、連れもね。
| 隣の真面目さん | 05:27 | comments(4) | trackbacks(0) |
ウェルディット!
十六夜咲夜 以前、テキスポといういい加減な文章サイトで書き出し縛り、一時間で書くという企画に参加した作品を、ブラッシュアップも兼ねて千文字にリライトしました。さすがに一時間では粗が粗があらあらといった様相で、新ふゆきょうに「一時間縛りだから勘弁してね」とのメッセージを添えて掲載してはいるものの、読み返すと人様にお見せするのが恥ずかしい出来でした。千字ちょいなのに脱字もありました。もう死んでしまいたい。
 しかし死ぬわけにも参りませんので他サイト投稿用に書き換えてみたと、こういった次第であります。
 さて、明後日十八時締切の四千字小説、「覚」をテーマとした作品が未だもって一文字も書けておりません。どうしたものでしょうか。どうしようもねえか。どうしようもなかろうが締切に間に合わせて尚且つそれなりのクオリティを保つのが文章を書く人間の使命であります。そんで今、連れに「私が今まで締切を破ったことがあって?」と訊いたら爆笑されました。どうやらキリハラ、使命を果たせていない模様。
 今回はそのような事態が起こらないよう明日一日で一気に仕上げて締切日は手直し程度で済む形にしたいと思います。
 以下、手直し小説本文です。一つ前の記事に書いた朗読公演も宜しくお願い致します。


 ウェルディット!(蘇)

 僕のマーチにはドアが一枚ない。
 一応助手席脇を塞ぐジュラルミン板とガラスはある。問題はその四囲が車体とアーク溶接してあること。ドアが壁の軽自動車。歩道から視線を感じることもある。
 車がこうなった理由は簡単、僕の可愛い彼女、真冬が足癖の悪い子なのと何故か溶接に必要な機材を持っていたから。気が短い事も関係している。脚力が強いのも。
 ドア溶接事件の経緯は、半年前に高速道路でたまたま窓を開けていたら、隣を通った半ヘルバイクが、あろうことか僕の助手席に火のついた煙草を放り捨てて来た。ただそれだけ。煙草は彼女お気に入りのチェックのスカートに落ちて、火が消えた代わりに焦げ跡を残した。
 次の瞬間、彼女は顔色一つ変えずに纏う空気だけ鬼神のそれと化して、スカートを翻えらせ僕の僕の僕のマーチのドアにサイドキックをお見舞いしていた。見事ジョイントと鍵を弾いて青空の下へ身を躍らせ、半ヘルをバイクごと一車線吹き飛ばして中央分離帯に叩き付けた可哀想なドア。速度を出していなかったからまだ良かったものの、クソガキもとい半ヘルは打撲や擦過傷を山ほど拵えて泣き喚く羽目になった。悲鳴を上げながら許しを請う二人組を彼女はその名前にふさわしい表情で冷然と見下ろし、静かに言い放った。
「財布」
 結局次のパーキングエリアで免許のコピーをとって脅した挙げ句半ヘルを解放した僕達は、五月晴れの陽気な世界の誘惑に負けてドアを後部座席に突っ込んだままドライブを続行し、何とか警察の目を避けて地元に帰り着いたのだった。
 で、翌日電話で呼び出され駐車場に行ったら彼女が既に溶接を始めていたと。
「綺麗にくっ付くよ、これ」ケラケラ。
 文句を言ったら殺されそうに思えたのと、案外違和感なく仕上がっていたので、僕は彼女の蛮行を半笑いで許すことにした。悲しかったけど。
 彼女が足の裏で蹴り飛ばした箇所は靴の形に凹んでいる。まるで日比谷かハリウッドみたいだけど、怖いから口に出したことはない。
 チェックのスカートはカツアゲ同然に巻き上げた慰謝料で色違いを手に入れた。灰色のタートルネックに合わせると如何にも大人しげな雰囲気で、ドアを破壊する悪魔には見えない。
 助手席側のドアが開かないから出かける際は先ず彼女が運転席からギアをまたいで乗り込む。その時にスカートの裾から覗く太股や何やらは、言えないけど見栄えが良くて、僕はその時だけ嬉しい気持ちになる。
| どうかしてしまった小説 | 00:52 | comments(0) | trackbacks(0) |
らーめんつけめん俺出禁
桂ヒナギク 本日はちょっとしたお知らせがございます。
 今月末、都内にてわたくしキリハラの小説作品が朗読に使われることとなりました。細かい経緯は省きますが、コネではなくコンペであったことだけ自慢させて頂きます。この「〜させて頂きます」という表現がわたくし大嫌いでありまして、他の表現がないものか一瞬逡巡したものの、結局ニュアンスとして一番近いだろうとの結論に達し使わせて頂きました。ああ、また。
 具体的な話を致しますと、Creative Configurationさんという小規模な劇団が演劇公演とは別に定期的な朗読公演というものを行っていらっしゃいまして、そこで使用する詩・小説を毎回公募されているのです。そんで応募したら採用されました。嬉しい。
 以下、情報と詳細頁へのリンクを書いておきます。東京近郊在住の方は是非に。

 Creative Configuration C2-Reading vol.06 『冬』
  日程:〇九年十一月二十八日(土)・二十九日(日)
  時間:それぞれ十三時、十六時、十九時〜
  場所:ギャラリー La Grotte
  チケット代:千五百円。
  詳細:http://www.c2-project.com/c2-reading_info.html

 改めましてこんばんは読者の野郎女郎共。今しがた机に置いてある就寝前用の顆粒お薬を見てみたらば、一包を三日に分けて飲むはずが一日で三分の二を消費しておりましたようで、空の袋だけが寂しそうに鎮座ましましております。これはどうしたことか。机の下にアイリッシュブレンディッドウィスキーの代表格であるところのタラモアデューを常備しているのがいけないのか。最近、恵比寿ガーデンプレイスのビアステーションに行かないと巨大ジョッキで飲めない琥珀エビスビールが期間限定缶で出たものだから毎日補充してはガバガバ飲んでいるせいか。酒!酒!酒!酒が眠りを妨げているのでしょうか。とにかく薬の量が増えております。勿論本当のところは昼間やら夕食後に惰眠をかこつているからなのですが、病人というものはそのような問題を認めたがらないものであります。キリハラの病的な部分が酒による抑制を欲しておりそのアルコヲルこそ睡眠障害の元である。そんな小理屈をこねておる昨今でございます。寝ようと酒を飲もうと結局キリハラの勝手な訳ではございますが、どちらにしても薬の量が増えてはいけない。ですから今後の課題と致しましては寝る前の薬は酔っ払っていてもあんまり増やさないようにしようねと、まあこういう結論なのですな。
 当然のことながら、この文章は小田嶋隆よろしくお酒を飲みながら書いております。誠にもって申し訳ない。拙者まるでだらしがない。だってウィスキーがおいしいんだもの。この一ヶ月程で多少増えた執筆量の影にはタラモアデューとかアーリータイムズの存在があるんだもの。仕方ないじゃない。おや、そう言っている間にショットグラスからタラモアデューが消えたのでタラモアデューの瓶からタラモアデューをタラモアデュー専用ショットグラスに補充しなくてはいけませんぞ。ゲラゲラ。これを書き終えたら十日締めの四千字小説を書き散らして夕飯を頂いて寝て起きて連れが作成した決算短信を読んで神妙な心持ちになる所存でありますぞ。
 話は変わるがわたくしの文章は読点が少ない。そして一文一文が長い。この冗長さと詰め込み感が初見の方に読み辛いという印象を抱かせてしまうのでしょう。しかし十年前、まだ十八歳を始めて間もない頃は読点が多過ぎて読み辛いと友人から笑われておりました。それがトラウマとなって段々長文少読点へと移行して参ったのでありましょう。で、今度は逆の事を言われている。要するにバランス感覚がないのであります。もう十年書いたら丁度良い塩梅の文章を書けるようになっているのでしょうか。そしたらそれはそれで「普通の文章でつまらない」なんて言われそうで恐ろしい。嫌な世の中であります。文句を言った方が勝ち。大体勝ちってなんだ。負け犬が負け犬ではなくなることか。それでは勝ち犬が量産されるだけではないか。私は人間でいたい。犬畜生になどなりたくない。もし畜生になるのであれば一人暮らしのOLの飼い猫になりたい。とか書いている間に一文が短くなりました。
 そんなことはどうでも良く、文章を書きながら酒を飲むと何やら筆の乗りがよろしくてですな、適当な事柄がすらすらと出て来るのであります。おそらく何も考えなくなるからでありましょう。心持ちは中島らも。毎日お酒を飲んで薬を飲んで文章を書いて人に好かれたり嫌われたりして、最後はろくでもない死に方をする。それもよかろうかと思います。問題はお酒と薬を買うお金が続くかどうかだけであり、特にウィスキーなどは高いのでどうしたものか思案のし所であります。タラモアデューはビックカメラのお酒コーナーで買いました。ビックポイントも付きました。いずれはビックポイントとマンションでも交換しようと思います。
| 小説がどうかしてしまった | 21:45 | comments(0) | trackbacks(0) |
九十八番に刺されて
初音ミク こんばんは、天才作家志望です。名誉も地位もいらないから生活して行けるだけのお金を文章で稼げるようになる所存です。しかし天才ならば結構なお金持ちになってしまうかもしれませんし、それに伴って名誉や地位も手に入れるかもしれません。文章を読むのが遅いのに文学賞の選考委員に抜擢される可能性だってございます。たまったもんじゃねえ。それはさておき文章を読むのが速い方は老若男女問わずうらやましいと感じます。速読術にお金を払うほどではないけどそう感じます。具体例を挙げると、何度も当ウェブログに登場したキリハラの敬愛する文章書きさん、もう名前を挙げてもいいでしょう、高菜らいすちゃんが、ウェブログを訪れるにつけ恐るべき速度で本を読みまくっているようで、その度に戦慄してブラウザを落とします。しかもこの方、書くのもやたらと速い。速読速記。博覧強記。晴読書雨読書。読むのも書くのも遅いキリハラとしてはとてもいいなあなんて指をくわえるばかりであります。関係ないけど、しろー大野御大の漫画『しろー駄作劇場』にはスイエイ・ハヤーイという天才博士が出てきます。
 つまり速いってことは天才の証なのではないでしょうか。よく知らんけど。だとしたら遅筆遅読のキリハラは非天才なのかしら。考えると嫌になってくるので今宵も小説を載せてお酒を飲んで寝ます。この間、友人から「アル中に気をつけろ」とのメールを頂いたので控えめにします。ただでさえ胃が重いのに、肝臓までやられたら死んだも同然であります。
 ちなみに胃が重いのはペプシあずき味を飲んだからだと思います。
 以下、本文。実は前記事の改稿版ですが、構成から直すのは珍しいので両方掲載する次第です。これで丁度千文字。叩き台にして二千文字、四千文字バージョンを作ってみようと思います。読んでくれ。


   九十八番に刺されて

 廊下を走ってはいけない。そう校則の第二条に書いてある。理由は蜂達が興奮するからで、彼らが生徒を刺せば事故になる。けれど様々な理由から廊下を走る生徒は絶えず、時折悲鳴が校舎に轟き、或いは慌てて教師に取り押さえられる。
 刺された相手が八十番台のスズメバチまでなら保健室に血清が置いてある。でも、九十番台、森を支配するムクドリバチの物だけは何故か存在せず、刺されれば大抵死ぬ。ムクドリの名を冠した彼らは大きく、鋭利な顎と針で静かに人間を威嚇しているように見える。
「イタル」
 僕は幼馴染に名を呼ばれ、我に返った。
「円」
「あのさ」円は声を潜め言葉を継ぐ。「九十八番に刺されると九十九番になるって知ってる?」
 九十八番はオオムクドリバチ、九十九番とは、何にも分類されていない漆黒の蜂を指す。最近、九十八番に刺されるとその黒い蜂に生まれ変わるという噂が流れている。
 ムクドリバチがどうして森から出て来たのかは誰も知らない。森には蜂の王がいて財宝を貯め込んでいるという風説を真に受けた人達が森に押し入り、蜂達と戦争をし、そして負けた。それが今の状況を生み出したと聞くけど、定かじゃない。実際、鉢の王の存在は確認されていない。九十九番も単なる変種かもしれない。
 とにかく九十番台を極力避けることが町で生きる人間の常識になっている。
「蜂と喋ったことないから分からないよ」僕は困りつつ答えた。
「うん」円は頷く。「でも、この間ミキが九十八番に刺されてさ、それから妙に私の傍をうろつく九十九番がいるんだ。何か私の周り飛び回ったり、目の前で止まったりして」
「恐いね」
 小さく被りを振る円。「ううん、怖くない。不思議……」言葉を切り、一瞬躊躇った後、懇願するように囁く。「イタルは、もし私が九十九番になったら怖がらないでくれる?」
 僕は答えられず、チャイムが鳴って彼女は自分の席へ戻った。
 翌週、円は友達を庇って九十八番に刺され、病院に搬送されたが結局死んでしまった。
 間もなくして教室に九十九番が一匹増え、僕の周りを飛ぶようになった。円が言った通り、目の前で何かを訴えるようにホバリングすることもある。
 円と最後に言葉を交わした時、彼女は九十九番に情を感じていたような気がする。それは今の僕にはよく分かる。ただ、僕が九十八番に刺されることを好しとするか、結果彼女の元へ行けるのか、それは幸せなことなのか。答えはまだ出ていない。
| どうかしてしまった小説 | 18:52 | comments(2) | trackbacks(0) |
九十八番の後
御坂御琴お晩でございます。千文字小説コンペティションを毎月行われているウェブサイト『短編』さんに投稿予定の小説を置いておきます。初稿半くらいのものですが、千文字丁度ということもあって、このまま投稿してもいいかなと思いつつ、そんな甘い考えはいかんと自分を戒めている最中であります。
 さて、このネタは設定上二千字、四千字と膨らましてゆけるものですので、今まであまり試したことのない、同じ話でボリュームを変える手法に朝鮮してみようかと思う次第であります。もしどこかで同じ話を見かけられたらば、そちらも宜しくお願い致します。へへ……。
 以下、本文。



   九十八番の後(餌)

 廊下を走ってはいけない。校則の第二条に書いてある。理由は蜂達が興奮するからで、彼らが怒って誰かを刺したら事故になるからだ。それでも喫緊の理由から廊下を走る生徒は絶えず、時折悲鳴が轟き、或いは慌てて教師が抑えにかかる。
 刺された相手が八十番台のスズメバチまでならば保健室に血清が置いてあり、アナフィラキシーが起こらなければ助かる可能性はある。ただ、九十番台、森にしか住まないムクドリバチの血清は未だに開発されておらず、命の保証はされない。ムクドリの名を冠した数種類の蜂は大きく、鋭い顎と針で静かに人間を威嚇しているようだ。
 森には蜂の王がいて、財宝を貯め込んでいる。そんな噂を真に受けた人達が森に押し入り蜂達と戦争をし、そして負けた。それが今の状況を生み出したと聞くけど、定かではない。蜂がただ人間にちょっかいを出したくなっただけかもしれない。実際、鉢の王の存在だって確認されていない。
 とにかく九十番台、特に九十八番のオオムクドリバチには近付かないことが町で生き残る方法とされている。
「イタル」
 僕は幼馴染に名を呼ばれ、我に返った。
「どうしたの」
「あのさ」アケルは声を潜めて言葉を継ぐ。「九十八番に刺されると九十九番になるって知ってる?」
 九十九番とは、まだ何にも分類されていない漆黒の蜂を指す。
「蜂と喋ったことないから分からないよ」
「うん」アケルは微かに俯いた。「でも、この間ミキが九十八番に刺されてさ、それから妙に私の傍をうろつく九十九番がいるんだ。何か私の周り飛び回ったり、目の前で止まったりしてさ」
「恐いね」
 小さく被りを振るアケル。「ううん、怖くない。不思議」それから僕の傍らにしゃがんで、上目遣いに言う。「イタルは、私が九十九番になったら怖がらないでくれる?」
 僕は答えられず、チャイムが鳴って彼女は自分の席へ戻った。
 翌週、アケルは友達を庇って九十八番に刺され、病院に搬送されたが治療の甲斐なく死んでしまった。
 間もなくして教室に九十九番が一匹増え、僕の周りをうろつくようになった。アケルが言った通り、目の前で何かを訴えるようにホバリングすることもある。
 アケルと最後に言葉を交わした時、彼女は九十九番に情を感じていた。それは今の僕にはよく分かる。ただ、僕が九十八番に刺されることを是とするか、結果彼女の元へ行けるのか、それは幸せなことなのか。答えはまだ出ていない。
| どうかしてしまった小説 | 22:38 | comments(0) | trackbacks(0) |
T.K.G.+
いしいしんじ 前記事に引き続き小説の項であります。前作の方が本腰を入れております。いや全ての作品に全力を込めていると、その上ででございますよ。

   T.K.G.+(莫)

 香奈子は目覚めてベッドから降り、腰に力が入らないことに気づいた。クリスマスイブのせいだとすぐに彼女は考えた。
 春海はスリップにパンツを穿いただけのあられもない姿のまま窓の方を向いて寝息を立てている。カーテンの隙間から漏れる濁った朝日が顔に直撃しているにもかかわらず、起きる気配は全く見せない。香奈子のため息が寝室に広がる。
「また朝ごはん当番私か」
 目覚まし時計をかけた時刻まではまだしばらくの猶予があり、クリスマスの朝食を彩りあるものにする余地は残されていた。特に昨晩食べ散らかした鶏肉その他諸々を使えば、昼間は肉食動物の春海を満足させる献立が出来そうだった。彼女の様子を見れば火を使ったところで起きてこないのは明白である。
 しかし、と香奈子は思う。抜けかけた腰で豪勢な朝食を拵えて春海に満足を与えた挙げ句、その後自分が会社でふらついた姿を見せる訳には行かない。ただでさえ男子社員の誘いを片っ端から断り続けて不愉快な噂を立てられる一歩手前なのである。それならばストレッチでもして三十に差し掛かろうという曲がった身体を整えた方が良い。
「春海ぃ」
 寝室を出る際の呼び掛けに春海が微塵も答える気配を見せなかったことで、彼女の意思は固まった。
 だらしなく尻を掻きながらキッチンへと向かう。リビングには酒瓶が何本か置きっぱなしになっている。テーブルの上に二本、ウィスキーとラム。香奈子の提案したワイン説はあっけなく却下され、ローストチキン等に合わせられる酒は蒸留酒に決定され、最初はロックグラスで慎ましやかに飲んでいたのがやがて氷も入れなくなり、結局毎年のごとくラッパ飲みに落ち着いたのを思い出して無意識に表情が曇る。いつか酒瓶を一本残らず排除して自分の色に染めてやろう。
 いや多分無理。
 香奈子は即座に否定する。リビングにいる間、イニシアチブをとるのは常に春海なのである。
 完全に溶け切った氷を一応冷凍庫に放り込み、冷蔵庫を開けると先ず飛び込んできたのは冬季限定缶ビールの山だった。白地に雪の結晶が舞う女性的なデザインはどうにも違和感を覚えてしまう、と考える。三十前後の女性がビールを飲む時、そこにスリムさや爽やかさを盛り込もうとするのは無駄な足掻きのように思えてならない。
「どう?」
 最早声の届かない同居人に向かって香奈子は問い掛けた。
 使えそうな食材を適当に探して賞味期限を確認しながらキッチンスペースに並べて行くと、いつも通りの質素なグラデーションが描かれた。どこかのCMで朝は米だとか主張していたのを思い出し、香奈子は苦笑した。米は米でもそこに味噌汁や野菜のおひたしか焼き魚が付いてこなければ意味はない。だが、殺風景な2LDKのマンションに健全な食卓はどう考えても似合わず、せいぜい一汁一菜の一汁を除いた程度がふさわしく思われた。成る程自分達は求道者かもしれない。
「まさか」
 香奈子は冷凍庫から取り出した残りの米を電子レンジにかける。一度空気穴を開け忘れて爆破事故に繋がりかけたので注意しなければならない。合わせてさほど汚れていない卵を二つと、視界の端に入った賞味期限ギリギリのビタミン食を取り出した。
 洗っておいた茶碗二膳に解凍した米を盛り付け、卵他と共にお盆に乗せた所で寝室からけたたましい目覚まし時計の音が鳴り響いた。それと共に悲鳴とも悪態ともつかない叫び声が二部屋を突っ切って届く。思ったよりも早く時間が過ぎていたことに香奈子は驚き、また余計な気を回さないで良かったと安堵した。
 お盆をリビングに運び込むに合わせ、アザラシのぬいぐるみを脇に抱えつつ空いた手で頭を掻き毟る春海が現れた。明らかに睡眠を妨害されたという表情をしており、髪型と服装さえ整えておけばやり手のキャリアウーマンといった風情の彼女も下着姿で髪を乱した状態ではなかなかよろしくは見えない。
「うるっさいなあの時計。買い換えない?」
 香奈子はくすりと笑った。
「あなたが買ったんじゃない。起きられないって」
「香奈子が起こしてくれればいいんだよ」
「私は起こす人生に疲れたの」
「せつねー。せつねーよ。愛がねーよ。私の悲しみを分かってくれるのはくろたんだけなのね」そう言って、黒いアザラシを悲劇のヒロインよろしく両腕に抱きしめる。
 その様子を眺めつつ、春海の分まで卵を割って他の食材と混ぜ合わせてやる香奈子。箸はやや色褪せ、使い方の粗い春海の先は皮が剥がれかけている。茶碗に入ったひびも彼女が洗い物の最中シンクに落として作ったものだ。香奈子は、そういった事柄を気にせず、また同じような失敗を自分がした時に責めたりしない春海を愛する。出来る限り共に居たいと切に願う。昼も、夜も。
「なあんかクリスマスだっつのに質素な朝ごはんだねえ」
「昨日の夜が重かったんだから、このくらいがいいのよ」
「重かった? 何が? 私?」
「食事よ。あなた、私の上に乗らなかったじゃない」
 途端に晴海の顔が赤くなり、ぬいぐるみを香奈子に向かって投げつける振りをする。
「けっ、いつものことじゃん!」
「そうね。寝室を出るとこんなに強気なのに、電気を消したらあれだもの」
「私はネコだからいいんだよ」春海は一旦言葉を切る。「意地悪だな」
 香奈子は指に付いた卵白と卵黄の混ぜ物を舌で掬い取り、箸を置いた。
「食べましょ。こんな格好でなんだけど」
「別にいいよ。私、あんたのつるぺたな下着姿とか好きだし」
「そんなこと……」香奈子の言葉は続かなかった。その後数秒続いた沈黙には多くの感情が込められ、消え、最後に小さなため息へと変わった。
「食べよ」
 香奈子は頷き、箸を動かした。静かに卵かけご飯を掬う彼女とは対照的に、春海の食べっぷりは良く言えば勢いがある。最初からかき込むように音を立ててすする姿は会社でも健在だという。
「まあ、あれだよね」箸を止めて春海が言う。「クリスマスイブはやりまくるに限るよね」
「お蔭様で私の腰は崩壊寸前だけど」
「壊れたら養ってあげるって。極貧生活になるけど」
「今だってお金持ちじゃないわ」
「だからやりまくるんじゃん」
 香奈子は慎ましやかに笑った。冴えない生活と友人は言う。さっさとやめろとも忠告を受ける。しかし、それでもこの不健全な生活は楽しいと思う。「早く同姓結婚出来るようになればいいのに」独り言のように呟いた。
「出来なくても一緒にいればいいんだって」春海は下品にご飯をすすりながら言う。そして、一瞬手を止める。「あっ」
「どうかした?」
「オクラ入れたろこれ」
「うん」


 第一稿手直し版です。殆ど直していない。不健全で生々しいレズカップルの朝を書きたかったのですがまだまだなようであります。
| どうかしてしまった小説 | 01:34 | comments(0) | trackbacks(0) |
1/112 >>
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28      
<< February 2010 >>
+作者
+ (名)キリハラの小説ウェブサイト
新ふゆきょうバナー
+ 死活問題
↓毎日でも押していただきたい
ブログランキングボタン
にほんブログ村 小説ポエムブログへ
+ 九十六のテーマ
+ ブックマークス
+ 最近書いた物
+ 最新コメンツ
+ 最新トラックバックス
+ カテゴリー
+ 記憶探しの旅
+ 他
あわせて読みたい
このページの先頭へ